メッセージ

京都大学医学部教授 公益社団法人 日本産科婦人科学会 理事長小西 郁生

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私たちの希望の星、お腹のなかの赤ちゃんとお母さんへ

「お腹のなかでよくここまで大きくなってくれてとても嬉しい!」「ありがとう!」「もう少し頑張って、出てくるのを待って欲しい!せめて妊娠28週を過ぎるまで」「その次の段階は、妊娠34週を過ぎるまで!もしもできれば37週の満期まで!」お母さんの思いと私たち医療者の願いはいつも同じです。

産科病棟には、そういった、ふつうよりも早く出て来そうな切迫早産の妊婦さん、そして高血圧腎症など合併症をもつお母さんが多数入院されています。私は立場上、週に一度の回診でお腹を触らせていただきます。私自身はこの回診を楽しみにしていますし、入院中の妊婦さんも私が来るのを楽しみにしているようです。そして、私がお腹をそっと触りますと、お腹の赤ちゃんを直接触っているような感触があり、頭や背中がわかり、ときにつっぱっている足を触ることもあります。そして、「1週間前よりも少し大きくなったね!」と言いながら触っていますと、急に赤ちゃんが気持ちよさそうに動き出すのです。

それは、赤ちゃんが私の手を直接感じていて気持ちがよいのか?またはお母さんが嬉しいなと思う気持ちが赤ちゃんに伝わっているのか、どちらかわからないのですが、確かにお母さんと赤ちゃんは、体も心も繋がっているように思えます。そして、ついに苦しい陣痛の末に、あるいは緊急の帝王切開で「おぎゃあ」と元気に生まれてくると、この赤ちゃんの元気な泣き声は、お母さんも、ご主人も、おじいちゃん、おばあちゃんも、そして私たち医療者も、回りのすべての人々を幸せにしてくれるのです。

でもみんながみんな、元気に生まれて来るとはかぎりません。まずは、妊娠しても5人〜10人に一人は初期に流産となってしまいます。実はうちの場合も最初がそうでした。2回目からも途中でいろいろなことがありましたが、最後は元気に生まれました。初宮参りで「本当によく生まれてきてくれたね!」と思うと、どんどん涙が出てきて止まりませんでした。でも、ときによっては、何か体の病気をもって、あるいは、お腹のなかの状態が悪くなってぐったりしながら生まれてくることもあります。

でもご安心ください。今、日本の周産期医療は世界最高水準にあり、他のどの国よりもお母さんも赤ちゃんも一番助かる国になりました。産婦人科医・助産師さんと小児科医の努力、そして麻酔科医を含めてサポート体制がしっかりしてきたのです。私自身は実家で、産婆さんが来てくれて生まれました。当時は、妊娠・出産時のお母さんや赤ちゃんの死亡率はとても高かったのですが、今は世界で一番低くなっているのです。

さて、2年前からお腹のなかの赤ちゃんのいろいろなこと、たとえばダウン症の可能性が血液検査でわかることが報道されて、みなさんびっくりされたことでしょう。これからも検査がどんどん進歩してさまざまのことがわかりすぎる時代に入っていきます。私たちのもっている遺伝子がすべてわかるようになっていくことでしょう。ところが、そうしますと良いこともあるのです。私たち人間の一人ひとり、「全部、“正常”な遺伝子をもっている人間は一人もいない」ことがわかってくるようになります。

これは逆に、本当にいいことですね。みんな、お互いに顔が違うように、違った遺伝子をもっている、これが個性だ!ということがわかってくるのです。もちろん病気があれば手当をしますし、生まれてからのハンデイキャップがあれば社会の支援が必要です。大事なことは、検査で遺伝子のことがわかるといっても、これは一人ひとりの個性の一部を見ているだけなのです。

人間みんな個性をもっている、これはとても大切なこと、だから、一人ひとりをとても大切にしないといけないですね。お腹のなかにいる赤ちゃんに言ってあげたい。「どんな様子で生まれてきても大丈夫、ちゃんと育ててあげますよ!」「みんながついていますよ」

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